「世界一」の成功体験がもたらした問い。若手たちが抱えていた“静かな危機感”
常に新しいことに挑んでいかなければならない。
そう話したのは、計算科学も活用して新しい材料を開発したいと考えているプロジェクトメンバーの1人、江原氏です。海外拠点との連携の中で「変化の必要性」を強く実感していたといいます。

江原 亮
Ryo Ehara
東京応化工業株式会社エレクトロニクス材料課 技術主任
2023年入社。半導体先端プロセス向け洗浄液の開発を担当。国内外に開発拠点を持つ強みを活かしつつ、データ共有のさらなる強化が必要と感じている。miHub®を通じて国境を越えた情報共有を実現し、経験や知見を体系化してコミュニケーションツールとして活用し、効率的な開発体制の構築を目指している。
台湾やアメリカの拠点とやりとりをする中で、彼らは新しい手法を積極的に取り入れていると感じていました。常に『新しいことに挑まなければ』という意識はありましたが、具体的にどうすればいいのか、その手段は見えていませんでした。
東京応化工業は、長きに渡りフォトレジスト分野で業界をリードしています。その圧倒的な実績と信頼は、先人たちが積み重ねてきた研究開発の成果であり、揺るぎない自信として社内に根付いています。一方で、その成功体験が大きいからこそ、「これまでのやり方をどのように発展させていくべきか」という問いに直面する場面もありました。
入社数年の若手である内山氏は、日々の業務の中で感じていたもどかしさをこう振り返ります。

内山 愛海
Ami Uchiyama
東京応化工業株式会社先端材料開発三部
2024年入社。パッケージ用レジスト開発に従事。
既存品の改良や、顧客要望に応じた製品開発を担当。レジスト組成に加え厚膜用プロセス条件検討を行っている。業務を通じてスピード感のある開発の重要性を実感し、より迅速な顧客対応を目指すためMIの活用を進めている。
当社には素晴らしい成功事例がたくさんあり、膨大なデータが蓄積されているはずなんです。でも、それがいざ必要な時に見つからない、整理されていない。自分で調べようとしても辿り着けず、この状況をどうにかできないか、という課題感をずっと持っていました
これまでの研究開発で蓄積してきた財産であるデータやそれに紐づく知見を活用し、「もっと良くできるはずだ」という感覚を抱いていました。その想いが、MIと出会ったことで、具体的な行動へとつながっていきます。
今回のプロジェクトの特徴は、そんな意欲ある若手と、それを支える経験豊富なベテランが「ペア」となって挑んだ点にあります。
ベテランの野口氏は、miHub®を初めて知った当時をこう振り返ります。

野口 拓也
Takuya Noguchi
東京応化工業株式会社エレクトロニクス材料課 技師
2011年入社。半導体パッケージ用接着剤や機能性フィルムの研究を経て、現在は半導体最先端プロセス向け洗浄液の開発に従事。業務効率化とデータ活用による製品開発を目指し、miHub®を活用した研究開発を実践するとともに、部門内への浸透を目指し活動している。
我々が担当する洗浄液や剥離液は、レジストに比べて組成がシンプルで、配合の調整が性能にダイレクトに効く分野です。直感的にこれは我々の部署にぴったりだと感じました。この直感を信じて、部署全員が使えるようにしたいと強く思いました。
ツール導入だけなら続かなかった。実践を前に進めた伴走型のコーチング
プロジェクトの立ち上げ当初、多くのメンバーが抱いていたのは、「MIを使えば、すぐに答えが出るのではないか」という期待、あるいは「プログラミングが必要なのでは」という不安でした。しかし、実際に取り組んでみると、そのどちらとも異なる現実に直面します。
「最初はすごく苦労しました」と語るのは齋藤氏です。

斎藤 聖奈
Seina Saito
東京応化工業株式会社先端材料開発二部 技術主任
2022年入社。先端レジストの開発に従事。
顧客要望に応じた製品開発を担当。業務を通じて顧客のスピード感や要望の高さを実感し、効率的な顧客対応かつ革新的な製品の開発を目指すべくMI活用に努めている。
以前からMIの成功事例を聞いていたので、すぐに良い結果が出ると思い込んでいました。しかし、いざ始めてみると、社内のデータの形式がバラバラで、まずはそれを整えるところから始めなければなりませんでした。

早川 優
Yu Hayakawa
東京応化工業株式会社先端材料開発二部 技師
2006年入社。先端レジストの開発に従事。
開発業務において、顧客要望に応じたレジストを提案するために種々のデータ解析をおこなっているが、加速する開発スピードに対応すべくMI活用を模索している。
単にデータを入れれば答えが出るものだと思っていましたが、そうではなかった。どのような設定にするのが最適か、という判断が最初は自分たちだけではつけることが難しく、それぞれのアクションの背景も含めて何度も議論しながら進めました。
どう解析すればいいかわからないという壁を乗り越える鍵となったのが、MI-6によるコーチング支援でした。
野口氏は、もしコーチングがなかったらと想像し、率直な感想を次の様に語りました。
もしツールだけを導入して自分たちだけでやっていたら、おそらく途中で止まってしまっていたと思います。通常業務もとても忙しいので、行き詰まった時にどうすればいいんだっけ?と悩んでしまうと、つい後回しになり、だんだん使わなくなってしまったと思います。
毎月のコーチングセッションでは、単なる操作説明ではなく、なぜその結果が出たのか、次はどういう仮説で解析・実験すべきか、という本質的な議論が交わされました。
我々が業務上で悩んでいる背景まで深く理解した上で、この設定だとこういう傾向が見える、次はこういう切り口で試してみてはどうかなど、具体的なアドバイスを数多くいただきました。我々の悩みの背景を深く理解した上で真摯に寄り添ってくれたことに、非常に感謝しています。
内山氏のチームは、他のチームとは異なる「プロセス解析」に挑んでいました。
最初は本当に適用できるのかと不安でしたが、解析アプローチを提案いただいたり、こちらから変数を提案したりと、二人三脚で進めることができました。結果として、先輩たちが長年感覚で行ってきた部分を、データとして可視化できたことは、私にとって大きな自信になりました。
「効率化」を超えて。エンジニアとしての視座が変わった瞬間
半年間のプロジェクトを経て、メンバーたちの意識には大きな変化が訪れました。それは、「MIは単なる業務効率化のツールではない」という気づきです。

藤波 哲郎
Tetsuro Fujinami
東京応化工業株式会社先端材料開発一部 技師補
2018年入社。先端レジスト用素材の開発に従事。大学との共同研究や初期段階の開発を経験し、現在は顧客紹介を前提とした開発を担当。顧客の圧倒的なスピード感と品質要求を目の当たりにし、より効率的かつ再現性の高い素材開発の必要性を痛感。MIの活用に興味を持った。MI活用にあたっては、現場のニーズ念頭に、エンジニアの暗黙知を言語化できるよう努めている。
最初は目標値を入力すれば実験条件が出てきて、解析完了というレベルで考えていました。でもコーチングで、もっと細かい出力結果を見てみましょうと伝えていただき、データを深掘りしたところ、とても驚く結果を得ることができました。自分のエンジニアとしての勘では、この条件を変えても結果は変わらないだろう、と思っていた箇所が実は大きく影響していたり、逆にこんな条件で、できるはずがないと思っていたものが候補に挙がっていたりしたのです。
自身の経験則やバイアスが、データによって覆される瞬間。藤波氏はmiHub®を「エンジニア自身の能力を高めるプラットフォーム」だと捉えるようになります。
MIを使うことで、エンジニアとしての視野が広がり、自分自身の成長につながるものだと気づきました。
江原氏もまた、MIの位置づけをこう捉え直します。
サイクルを回す中で、予想もしていなかった良い結果が出ました。でも同時に、MIはあくまで一つの手法に過ぎないとも痛感しました。今まで先輩方が積み重ねてきた知識や経験と、我々のデータを組み合わせて初めて上手くいく。MIさえあればいいわけではなく、知見との融合が不可欠なのだと学びました。
データという共通言語を通じて、若手とベテランの間にあった見えない壁が少しずつ取り払われ、相互理解が深まったことも、このプロジェクトの大きな成果でした。
若い“大使”たちが広げる変革の火
プロジェクトの後半、メンバーたちは得られた成果やノウハウを周囲へ広める活動を自発的に開始しました。
内山氏は、社内のポスター発表でmiHub®の活用事例を発表し、その反響は想像以上だったと振り返ります。
部署を問わず、多くの人が集まってくれました。プロセス解析にも使えるのか、うちの部署でもやってみたい、といった声をたくさんもらい、確かな手応えを感じました。今後は、部署内にまだいる”自分で考えた方が早い”という懐疑的な人たちの心を、成果を示すことで少しずつ動かしていきたいです。
藤波氏は、その行動の原動力について、次のように語ります。
これだけ時間をかけて取り組んだことが、形にならずに終わってしまうのはあまりに悲しいんです。絶対にこの取り組みの火を絶やしたくないという使命感があります。
自分たちのプロジェクトを絶対に成功させたい、という当事者意識こそが、トップダウンの指示だけでは生まれない、真の変革の駆動力となっています。
江原氏は現在、台湾の拠点でMIを導入する準備を始めています。
海外のメンバーは情報感度が高い。私自身がコーチングで学んだことを、今度は私が彼らをコーチングする立場として、相談しやすい雰囲気を作りながら、国境を超えてデータを共有する文化を作っていきたいです。
野口氏もまた、研究開発の未来を見据えています。
実験を行ったら必ずmiHub®に入力する。それを当たり前の文化にしたいんです。データを蓄積し共有することが、将来の私たちの資産になり、解析スキルの向上、ひいては新しい材料、製品の開発につながるはずです。
積み重ねた知見を、次の力へ
インタビューの最後、「自分たちが会社を変えていくのだ」という力強い言葉を、インタビューに参加していただいた全員が、口を揃えて語っていました。
鈴木 健太
Kenta Suzuki
東京応化工業株式会社先端材料開発一部 課長
2007年入社 先端レジスト開発に従事、2016年~2020年はベルギーの半導体技術のコンソーシアムIMEC出向、帰国後、高い顧客要望かつスピード感のある部署に属しながら開発本部全体のDX推進、顧客対応最前線でMI活用を模索する。
失敗には再現性がある。だからこそ、成功体験だけでなく失敗談もアーカイブして共有してほしいです。私は、エンジニアの共通言語は数字だと思っています。言語や世代、国や会社の壁を超えて、数字でなら語り合うことができる。 数字を共通言語としたコミュニケーションツールとして、miHub®を更に活用していきたいです。
半年間で経験したすべてが、東京応化工業にとってのかけがえのない資産となっています。
これまで培ってきた研究開発の知見や蓄積してきたデータを土台に、 そのツールをより活用し、失敗を恐れずに挑戦し、周囲を巻き込みながら前に進んでいくーーそうした「活用する人」の熱量こそが、変革を動かします。
本プロジェクトに取り組んだ皆様は、その実践を通じて、組織変革を牽引する存在へと確かな進化の一歩を踏み出しました。世界シェアNo.1企業の次なる進化は、現場の最前線から力強く始まっています。数字を共通言語に、今後さらに大きな飛躍を遂げられることでしょう。私たちMI-6も、その歩みを支えるパートナーとして、共に成長していきたいと思います。
いかがでしたでしょうか。本事例が、少しでも多くの研究者の皆様のお役に立つことができていれば幸いです。本編では、取り組みの全体像について、より詳しく書かれています。
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